本紙紙面

2026年10月26日配信

【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第9回】
やらないこと
――ブランドは「やること」より「やらないこと」で決まる



 前回は、販促設計の最終段階とも言える撒き量について考察した。「誰に」「何を」「いつ」「どのように」「どれだけ届けるのか」。ここまで設計できれば、販促の精度はかなり高くなる。しかし、最後にもう1つ決めておかなければならないことがある。それが、「何をやらないのか」である。

 販促というと、どうしても「何をやるか」に目が向く。折込チラシをやる。DMを送る。SNSをはじめる。値引きキャンペーンを行う。実際には、長く選ばれる店ほど、やること以上に「やらないこと」が明確である。今回は、販促の最後の設計として、この「やらないこと」について考えてみたい。



■売上が取れる販促が、正しい販促とは限らない

 販促を行えば、当然ながら反応は欲しい。問い合わせ件数が増え、来店客が増え、売上につながれば成功したように見える。しかし、短期的に売上が上がったからといって、その販促が本当に会社にとって良かったとは限らない。

 例えば、「地域最安値」「今だけ半額」「どこよりも安くします」と大きく打ち出せば、一定の反応を得られるかもしれない。しかしその結果、集まる顧客が「安さだけを求める顧客」ばかりになれば、その後も価格競争から抜け出せなくなる。

 さらに、1度「安い店」という印象がつけば、本来持っていた施工力や提案力、接客力といった価値が伝わりにくくなる。目先の売上を取りに行った結果、自ら自社のブランド価値を下げてしまう。そんな販促も存在するのである。

 販促で重要なのは、「反応が取れるか」だけではない。「どんなお客様から、どんな理由で選ばれるのか」まで考えることだ。

■安売りだけの訴求を「やらない」

 インテリア専門店やリフォーム店にとって、価格はもちろん重要である。決して「価格を出してはいけない」という話ではない。問題なのは、価格以外に選ぶ理由がない状態を自らつくってしまうことである。競合店より1万円安い。さらに別の店が2万円安くする。するとまた価格を下げる。この競争には終わりがない。しかも、資本力のある大手企業と同じ土俵で価格競争をすれば、中小店ほど不利になる。

 だからこそ地域密着のインテリア専門店は、「安いから選ばれる店」ではなく、「この店だからお願いしたい」と思ってもらえる理由をつくらなければならない。施工の丁寧さ、担当者の人柄、地域で積み重ねてきた実績、商品知識、提案力、アフターサービス。こうした価値を伝えることも販促なのである。

 価格は武器の1つであってもよい。しかし、価格だけを武器にする販促はやらない。そう決めることも、立派な販促戦略である。

■他社批判を「やらない」

 競合店との差別化を考えていると、「他社より優れていることを伝えたい」という発想になりやすい。ここで注意したいのが、他社を否定することで自社を良く見せようとする販促である。

 「大手は価格が高い」、「激安店は工事が雑」、「訪問販売には注意」。こうした表現は、一時的には読み手の注意を引くかもしれない。しかし、他社を下げたからといって自社の価値が上がるわけではない。むしろ消費者から見れば、「この会社は他社の悪口を言う会社なのか」という印象を持たれる可能性すらある。

 競合との差は、他社の欠点ではなく、自社が何を大切にしているのかで伝えるべきである。「私たちはここまで説明します」、「工事後もこう対応します」、「この地域で〇年間仕事をしています」。そうした事実の積み重ねが信頼になる。

 他社を下げる販促ではなく、自分たちの価値を上げる販促を選ぶ。これも「やらないこと」の1つである。

■不安を煽る販促を「やらない」

 販促では、顧客の不安や困りごとに気付いてもらうことは重要である。「このままでは冬の寒さが厳しい」、「古い設備は故障する可能性がある」、「早めの点検がおすすめです」。こうした情報提供は、顧客に行動のきっかけを与える。

 しかし、それが行き過ぎると「不安を煽る販促」になる。「今すぐ交換しないと危険です」、「このまま放置すると大変なことになります」。必要以上に恐怖心を刺激し、契約を急がせる。その場では売上になるかもしれない。だが、顧客が後から「本当に必要だったのだろうか」、「うまく契約させられたのではないか」と感じれば、その会社への信頼は一気に失われる。

 住宅やインテリアは、多くの場合、1度売って終わりの商品ではない。数年後に再び相談してもらう。家族や知人を紹介してもらう。そうした長い関係の中で商売が続いていく。だからこそ、1回売るために、長期的な信頼を失う販促はしない。この判断が重要になる。

■「なんでもできます」をやめる

 中小企業ほど、「お客様から頼まれたことは何でも対応したい」と考えがちである。その姿勢自体は決して悪くない。しかし、販促で「何でもできます」と表現してしまうと、逆に強みが見えなくなる。

 カーテンもできます。リフォームもできます。外壁もできます。水回りもできます。家具もできます。エクステリアもできます。結果として、「結局、この会社は何が得意なのか」が分からなくなる。

 選ばれるためには、できることを増やすだけではなく、何を専門として見せるかを決めることが重要である。これは実際の業務を限定するという意味ではない。販促上の入口を絞るということである。

 「窓の断熱ならこの会社」、「カーテンならこの店」、「マンションリフォームならここ」。そう認識してもらえれば、問い合わせの入口が明確になる。

 何でもできる会社になるより、まず〇〇ならこの会社と思われること。そのためには、ときに「何でもできます」という便利な言葉を捨てる必要がある。

■「やらないこと」はブランドをつくる

 ブランドという言葉を聞くと、ロゴや店舗デザイン、広告表現を思い浮かべる人も多い。もちろん、それらもブランドを構成する要素ではある。しかし、本当のブランドはもっと日常的な判断の積み重ねでつくられる。

 値引きを求められたときにどうするか。競合の悪口を言うか。無理な契約を取るか。得意ではない仕事まで「できます」と言うか。売上が欲しいときに、自社のルールを曲げるか。こうした場面で「私たちはそれをやらない」と判断できる基準こそが、会社の姿勢になる。そして、その姿勢がお客様にも伝わっていく。

 つまりブランドとは、「私たちはこれをやります」と宣言するだけではつくられない。むしろ、「私たちは、これはやりません」という線引きによって、輪郭がはっきりしていくのである。

■市場は「海」と考える

 ここまで本連載では、販促を「釣り」に例えてきた。商圏という海を決め、狙う魚を決め、魚がいる深さを考え、タイミングを見て、エサを選び、糸をつなぎ、道具を選び、必要な量を撒く。

 しかし、もう1つ忘れてはいけないことがある。自分たちが釣っている海そのものを汚さないことである。

 誇大広告。過度な値引き。不安を煽る営業。他社批判。こうした販促は、一時的には魚を集められるかもしれない。しかし、それを業界全体が続ければ、消費者は広告そのものを信用しなくなる。

 「どうせチラシは大げさだ」「リフォーム会社は信用できない」。そんな空気が広がれば、結局困るのは自分たちである。

 市場は誰か1社だけのものではない。同じ地域、同じ業界で商売する企業が共有している「海」である。だからこそ、自分たちの販促によって、その海を汚さない。そんな視点も必要なのではないだろうか。

まとめ

■短期的に釣れる方法より、長く選ばれる方法を選ぶ

 販促を考えていると、どうしても「どうすればもっと反応が取れるか」という方向に意識が向く。しかし、本当に考えるべきなのは、「その反応を取った先に、どんな会社になりたいのか」である。

 安売りで売上を取る。競合を否定して自社を目立たせる。顧客の不安を煽って契約を急がせる。何でもできますと間口を広げる。それらは短期的には成果につながることもある。しかし、その積み重ねによって「安いから選ばれる会社」「売ることを優先する会社」になってしまえば、いずれさらに強い刺激を続けなければ売れなくなる。

 一方で、誠実に伝える。自社の得意分野を明確にする。無理な売り方をしない。顧客との長い関係を優先する。そうした販促は、一気に大きな反応を生むものではないかもしれない。しかし時間とともに、「この会社なら安心できる」「またここにお願いしたい」という信頼が積み重なっていく。販促とは、単に売上をつくるための技術ではない。どんな顧客と、どんな関係を築いていくのかを決める経営そのものでもある。

 だからこそ最後に決めたい。私たちは、何をやらないのか。

 短期的に釣れる方法より、長く選ばれる方法を選ぶ。ブランドは「やること」より、「やらないこと」で決まるのである。

■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第1回】
「販促」とは需要創造の仕組みづくり
設計思考への転換


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第2回】
海――商圏を決められない専門店は勝てない


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第3回】
魚――誰を狙うのかを定める


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第4回】
深さ――顧客は今、どの段階にいるのか


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第5回】
タイミング――「なぜ、今なのか」という必然性


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第6回】
釣りの組み立て――動線を1本の糸でつなぐ


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第7回】
道具より先に、「伝える価値」を設計する


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第8回】
販促費は「比率」ではない――目標から逆算する撒き量


■【シリーズ インテリア専門店の販促を考える 第9回】
やらないこと――ブランドは「やること」より「やらないこと」で決まる

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インテリアビジネスニュース10月25日号発行