本紙紙面
【特集 ハイムテキスタイルトレンド2025】南村弾氏に聞く
6者のテキスタイルに対する考察とは
過去・現在・未来の布の在り方を語る
②Ilse Crawford
英国を代表するインテリアデザイナーであり、デザインスタジオ「Studio Ilse」の創設者です。歴史を学び、キャリアの初期にはジャーナリズムに携わっていたIlseのデザインは、人間の感情、実体、親密さの重要性を打ち出し、非人間的な疎外感を覚えさせるような現代の社会環境の性質を和らげることを目指しています。
2019年に発表されたラグマットは、4つの基準(地元の天然繊維、手紡ぎ生産、漂白剤不使用、染料不使用)を持っているのが特徴で、天然素材の触感と視覚的な豊かさを感じさせ、資源と環境への影響を意識して構築されるなど、Ilseの思想を存分に表現しています。
Ilseは「ナチュラルカラー」という概念を懐疑的に捉えています。実際の自然にはない色を「天然風」に染めるということは馬鹿げていると断じています。これは均一性を追求する従来の繊維産業の慣行に異議を唱えるもので、私たちのモノづくりの在り方への警告でもあります。
③Christine Ladstätter
登山やアルペンスポーツ用品会社・Salewa社で、配送、生産、価格設定、コンセプト立案、素材開発までテキスタイルに関する幅広い職務を経験している人物です。
合成素材が主流であるスポーツウェア業界において、拠点を置くアルプス地域に根ざした伝統的な素材や技術、地元の職人技を見直して再評価することによりAlpine Hemp、Tyrol Woolなどを生み出しました。
このアプローチは、地元の農業を支援するだけでなくアルプスの伝統的な田園風景を維持するためのものでもあります。Christineは、最終製品が売れれば原材料の生産者たちが利益を得られる。そんな透明なサプライチェーンと公正な価値配分の重要性を強調しています。
④Dirk Vantyghem
Euratex(欧州繊維産業連盟)のゼネラルディレクターです。Euratexは欧州全土の繊維産業企業(20万社以上)と関わり、欧州の立法機関とも連携する極めて重要な組織です。
2019年に欧州グリーンディールが立ち上げられた後、パンデミックによりサプライチェーンが崩壊し必需品さえ不足、欧州が外部資源に依存しているという事実が浮き彫りになりました。またロシア・ウクライナ戦争ではエネルギー問題、インフレ問題など構造的な危機も生じました。これにより耐久性があり、機能的で循環型の製品への願望が世界中で急加速しています。しかしながら企業から打ち出されるサステナブルや循環型の製品はとても曖昧です。Euratexは立法機関と連携し、生産者や企業の透明性とトレーサビリティの向上を推進し、「デジタル製品パスポート」を導入することでグリーンウォッシュを抑制し、消費者が情報に基づいた購入決定を行えるよう取り組んでいます。
個人的には政策立案に関するこのDirkのお話しをもっとも興味深く、ヨーロッパだけの問題ではなく世界の至るところで同じことが起きていると思います。
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