本紙紙面

2026年10月10日配信

【ザ・チャレンジ】金唐紙研究所(東京・目白)
「金唐紙」を次世代につなぐ
新たな需要創出に向けた江端氏の挑戦

江端氏と作品
江端氏と作品

 日本における近代壁紙(商業用壁紙)の祖といえる「金唐革紙」。明治期には欧米で高く評価され、国家戦略的な輸出品目として一大産業となっていた。その製造技術を現代に引き継ぐのが、金唐紙研究所(東京・目白)の江端茉衣代表だ。

 「単に伝統を守るだけでなく、この技術を活かした新しい需要を創出し、仕事を増やしていくことで次の世代につないでいきたいと考えています」と江端氏は語る。

 金唐革紙のルーツは、ヨーロッパで生まれた「金唐革」。皮革にエンボス加工で凹凸を施し、金泥で彩色した装飾素材で、江戸時代に日本に持ち込まれてからは、小物などに加工され徳川家に献上されるなど珍重されてきた。この「金唐革」を和紙で再現した擬革紙が登場、それを壁紙として開発したのが「金唐革紙」のはじまりだ。

祖父・上田氏の作品
祖父・上田氏の作品

 明治6年のウィーン万国博覧会に出品すると、「金唐革」と比較して安価で手軽で高品質であることから、非常に高い評価を得て、その後大量に欧米に輸出されていった。国内においても、鹿鳴館など綺羅びやかな数々の洋館に高級壁装材として使用されていった。

 しかし、時代が大量生産へと移行する中、明治31年をピークに需要は低下、さらに戦争によって輸出が途絶えると、昭和37年には最後の製造所も閉鎖。それによって金唐革紙の製造技術は途絶えることとなった。

 それから約20年、昭和59年に行われた旧日本郵船小樽支店の壁紙修復事業において、再び「金唐革紙」にスポットが当たる。壁面に使われていた素材を調べると、すでに技術が断絶していた「金唐革紙」であったことが判明。しかし、その技術は失われ、再現することはできなかったという。

 そこで復元に名乗りを上げたのが、当時美術印刷事業を手掛けていた上田尚氏。江端茉衣氏の祖父である。

 上田氏はさまざまな関係者の協力を得ながら、また海外に残された資料などをもとに試行錯誤を重ね、金唐革紙の再現に成功した。技術を復活させた上田氏は、昭和60年に金唐紙研究所を設立、旧日本郵船小樽支店をはじめ旧呉鎮守府司令長官官舎、旧岩崎邸などの壁紙復元に携わっていく。また、かつての「金唐革紙」を引き継ぐという意味で呼称も「金唐紙」に改めた。

 こうした祖父・上田氏の活躍を幼少期から間近でみてきた江端氏は、高校生のときにこの道に入ることを決意、美術系の短期大学を卒業後、祖父に弟子入りした。

金唐紙の製作シーン、<br>版木に和紙を打ち込む
金唐紙の製作シーン、
版木に和紙を打ち込む

打ち込み後
打ち込み後

新開発のアートパネル
新開発のアートパネル

 それから約12年、金唐紙製作の技術を学びつつ、祖父とともに数々の重要文化財の復元に携わってきた江端氏。そして2024年に上田氏の逝去により金唐紙研究所を引き継ぎ代表に就任した。

 「祖父が再興した技術を後世に残していくことが最大の使命と考えています」

 江端氏は、今でも祖父から受け継いだ金唐紙の基本的な技法を大切にしている。その製法は、まずはベースとなる和紙づくりからはじまる。楮紙と三椏紙を貼り合わせて強度を保ちつつ、三椏紙側の滑らかな表面に金属箔(主に錫箔)を、1枚ずつ手作業で全面に貼っていく。次にその和紙を版木にあてがい、打刷毛を使って打ち込み、凹凸加工を施していく。そして、その表面を保護するためにワニスを塗り(錫箔が化学変化して金色になる)、仕上げに彩色を行う。

 「効率だけを求めて機械化するのではなく、祖父から受け継いだ金唐紙ならではの手仕事と技法は、しっかり守っていきたいと思っています。その一方、デザインについては新たなものを開発していくつもりです。これまで文化財の復元などに用いてきた版木には博物館所蔵のものも多いため、今後は新たな用途への展開を見据え、オリジナルの版木やデザインの開発にも取り組んでいきます」

 こうした技術を継承していく上で、江端氏がもっとも大きな課題として挙げているのが需要の創出だ。

 「重要文化財の復元だけでなく、現代のニーズにも合う素材として認めてもらう必要があります。壁紙としてだけでなく、例えばアートパネルのような新たな用途開発も進めているところです」

 技術を残すには、技術を守るだけでは足りないということだ。

 現在江端氏は、「金唐紙」の認知度向上に向けて、一般ユーザー向けのワークショップを積極的に実施しているほか、ヨーロッパなど海外市場への展開にも取り組んでおり、パリでの展示や実演も予定している。

 「需要を増やすことで、次の世代の後継者を育成するところまで行きたいと思っています。そのためにも、まずは『金唐紙』の存在を皆さんに知っていただきたいですね」と語る江端氏であった。





金唐紙研究所のホームページ
https://kinkarakami.com

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インテリアビジネスニュース10月10日号発行